事例1:生コンの加水
コンクリート打設圧送ポンプが故障し、生コンが1時間以上経過してしまった。しかたなく生コンに水を加えて打設してしまった。
(1)経緯
本プロジェクトは苦心の末、入札で勝ち取った都心に立地する30階建ての超高層マンションである。解体工事を含めて13ヶ月と他社に比べ約20%の短工期が決めてとなり発注者であるデベロッパーから高く評価され落札した物件である。
契約に際しては、新学期が始まる前の3月20日の引渡し日の履行が条項に入っており、引渡しが遅れた場合の損害賠償も厳密に決められた。全体工期から割り出させる当社ではじめての1フロアーあたり4日タクト工程を実現するために急遽社内にプロジェクト検討チームを設け、最大120Nのプレキャストコンクリートを用いた柱と梁による躯体の施工計画が策定された。下階の施工も若干の問題は生じたが何とか工程を守ることが出来、プレキャストコンクリートの柱建方をサポート治具無しで自立させる当現場で初めて実現した工法もうまくゆき、床のハーフプレキャストコンクリートを設置するための特殊足場も当現場で開発した自慢の技術である。外周のプレキャスト化した架構を強固につなぐため、外周に面しない柱と梁は、現場打ちコンクリートである。
工事も中盤に入った12階の躯体コンクリート打設中に問題は起こった。12階の半分のコンクリートを打ち終えた昼過ぎに、突如、コンクリート打設圧送ポンプが故障し、ポンプ会社作業員の懸命の修理の結果、流動化剤の良く攪拌されなかったものと見られるコンクリート塊が原因であった。
当初計画した流動化剤を加えたコンクリートの調合自体に問題がないことは確認できたが、修理の完了した14時には現場の前面道路で準備していたコンクリート車が10台連なり、近隣からのクレームの電話が鳴りしきっている。また、翌日の13階のプレキャストコンクリート出荷の連絡もすでに来ており、明朝からの建方に向け、コンクリート打設後の夕方から予定していた仮設盛替えの重機と作業員も準備が整っている。さらに明日、設計監理事務所の立会いも予定され、今日中にコンクリートを打設しない限り、約10日の工程のロスが生じるだけでなく、均等な作業員の配置を基にサイトでの鉄筋地組みの工程も狂い、作業員を追加せざるを得なくなり鉄筋加工会社、建方を依頼した鳶会社への追加費用が生じる。
生コン会社からこれ以上のコンクリートの出荷を止めるか確認の電話があったが、現場代理人である所長と相談の結果、引き続き打設を継続する決定をした。
さらに問題は起こった。再度、圧送ポンプが詰まり始めたのである。打設速度は半分以下となり、ついには完全に詰まった状況となり、ポンプ会社社員からは、待機させていた生コン車のコンクリートが規定の1時間を超過し、ワーカビリティが極度に落ち始めたことが原因であり、唯一の対策は生コンクリートに水を加えるしかないという意見であった。社内研修や一級施工管理技士を受験した際に勉強したコンクリートの品質確保上、水を加えることは品質が低下し、極度に強度が低下するのみでなく、ひび割れの発生しやすい躯体になることが頭をよぎった。下階で打設した強度試験結果を見ると設計強度よりもだいぶ強度に余裕があることも確認し、所長と協議した結果、打設するしかないだろうとの判断もあり、できるだけ加える水の量を少なくしてコンクリートを打設しつづけ、予定時間は大幅に遅れたが、その日のコンクリート打設は完了した。
その後の工期は順調に進み、20階の躯体工事に入った時に、問題は発覚した。共用廊下のタイル張りをする施工会社の社員から、12階壁のひび割れが大きく、タイル張り前に確認して欲しいとの連絡がきた。現場の品質管理担当から、コンクリートの材令強度試験結果として所定の強度はクリアしていることを聞き、建築主、設計監理会社には相談せず、念のため補修の目立たないパイプシャフト壁のコアボーリングによる抜き取り検査を6箇所実施した。その結果、3ヶ所の試験体で設計強度の7割しかない試験結果がでた。
(2)問題の認識
特に集合住宅の工期はどんどん短工期化しており、遅延に伴う損害賠償も契約に加えられるケースが増えている。生コンに水を加えることはコンクリートの品質問題で極めて基本的なことであり、竣工後には容易に見つけにくいものである。
契約工期どおりに竣工できなければ会社に大きな損害が生じることとなり、また、この会社で初めての4日タクトを実現し、社内にアピールできた自分のキャリアの汚点となることが逡巡している背景である。
しかし、建築主、設計監理会社に報告するコンクリート強度は試験体であり問題はないが、実際に使われた躯体のコンクリートは設計強度を満足しておらず、工事を継続するか、自ら判断し行動しなければ、どんどん問題は大きくなる。このまま放置すれば、躯体全体を解体する必要が出る、分譲後の場合、住民からの損害賠償額は会社の事業存続を危ぶむ額に達し、さらに営業停止処分など計り知れない社会的制裁のリスクを負うこととなる。
(3)放置した場合、現在あるいは将来の予測
コンクリート強度の不足は仕上材にも及ぶ亀裂やこれによる雨漏りが生じることとなり、さらには、大地震時の建物の倒壊の危険性にも繋がる。
(4)当該案件の具体的対象法令と罰則規定
建築基準法に抵触するほか、請負における瑕疵担保責任(民法634条)や不法行為(同法709条、故意や過失による場合に限る)に基づき、発注者から損害賠償や修補が請求されるものと考えられる。
(5)解決のポイント
本プロジェクトのケースでは、設計監理会社への相談はもとより、技術部、生コン会社などコンクリートの専門家と協議し、呼び強度を変えずに流動性を増す調合で生コンクリートを再出荷してもらうか、打設を中止すべきである。タクト工程の遅れは、30階までの残りの工期で修復し、できなければ、仕上げ工程で取り戻すことも可能である。
また、今回のような場合には、万が一、圧送ポンプが詰まることを想定して、対処法を設計監理者と協議の上準備をしておく用心深さがあってもよいかもしれない。