2.倫理教育・研修が果たす役割
社会に信頼されるには規範を示し、倫理観を豊かにもつ専門家を一人でも多く輩出しなくてはなりません。しかし行政が社会の信頼を回復するために打ったさまざまな対策には「倫理教育」という項目は前面にでてきませんでした。法律の罰則強化や建築士制度の厳格化にとどまっており、倫理に関する専門家の育成は、実務者教育と教育機関で行われる倫理教育にまかされる形になりました。確認申請制度や建築士制度などの厳格化は、言うなれば犯罪が深刻化してきた場合の刑法の厳格化と同じようなものです。しかし厳罰化だけで完全なのではなく、犯罪を起こさない人を多く育てるという倫理教育も合わせて必要であるということは論を待ちません。日本がこれまで獲得してきた安全を守るための最先端の技術を、これからも世界に発信していくことは当然ですが、さらに世界に誇る倫理をその背景にもつことが強く求められています。ある人は、安全は日本の文化であると言っています。我が国の安全文化の堅持には倫理教育の徹底が不可欠なのです。
このような流れを受け、2006 年度から学会倫理委員会では、①建築に関する倫理的事例の調査・研究、②実務者向け倫理用教材の企画・刊行、③教材、技術者倫理研究会を通じた倫理教育の推進などの研究、開発を行っています。
3.本書の目的
本書はこれらの活動を通じて、建築系学生に向けた倫理教育と企業・組織における実務研修を担当する方々をサポートするためにまとめられた資料です。この分野についてはまだ模索が続いていることから、まず現状の教育・研修状況をアンケート調査で明らかにし、その傾向を分析した「アンケート分析編」と、それらの助言により構築されるよりよい教育・研修の在り方をガイドブックの形式で提供した教員・研修担当者向け「ガイドブック編」から成っています。
ガイドブック編は、これから倫理教育・研修を行おうとしている教員・研修担当者の方々をサポートするガイドブックです。建築系学生に対する倫理教育を行っている教育機関および企業・機関を対象にしたアンケート結果から事例や文言、意見などを引用・参照し、当委員会での議論を踏まえて書き下ろしたものです。
建築は社会と密接に関連する学問領域です。社会に信頼される誇りある技術者を育てることが教育・研修の基本であることをつねに忘れずに、本資料を活用し、創意工夫にあふれる新しい教育方法を生み出していくための一助になれば幸いです。
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